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第27話 起死回生

last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-02 20:50:23

※虫の気持ち悪い話が続いています

「クマ吾郎、大丈夫か? あの虫を飲み込んでいないよな?」

「ガウ」

 俺の問いかけにクマ吾郎はうなずいた。大丈夫のようだ。

 あの虫。

 最初にボサボサ頭のジェイクが虫を飲み込んだ一週間前、もっとしっかり介抱してやればよかった。

 腹を殴ってでも虫を取り出しておけばよかった!

 だが、今さら後悔してもどうしようもない。

 俺は辺りを見渡した。

 通りには人がほとんどいない。あの虫を恐れて、みんな家に閉じこもっているんだろう。

 俺は衛兵の詰め所に行ってみた。

 もし虫討伐の準備が進んでいるなら、手伝いくらいしようと思ったのだ。

「虫退治がどうなっているのかって? 手に負えないから、王国騎士団の応援を呼んだよ」

 衛兵の一人が言う。

 彼は奥のドアを指さした。

「下手に退治に行くと、ミイラ取りがミイラになる。寄生されて虫を吐き出す人間が増える一方だ。寄生された奴らはあっちの部屋で隔離している」

「そんな……」

 ジェイクはあんな状況でも正気を保っていた。あれは苦しいだろうな……。

 王国騎士団は数日以内に到着する予定だという。

 今、俺にできることは何もない。

 下手に手を出したら俺まで寄生されるかもしれないし。ていうか危なかったし。

 別に王国騎士団を待つ必要もない。

 ちゃんと討伐できるの見込みがあるならば、こんな町はさっさと離れておいたほうがいいかもしれん。

 俺はモヤモヤとした気分を抱えながら、表通りに戻った。

「もう夕方か。宿屋、やってるかな」

 そんなことを考えながら、宿のあるほうへ行く。

 と。

 道端の茂みの中から、魔物の虫が飛び出してきた!

「クソ、町なかにもいるのかよ!」

 俺は剣を振るって虫を叩き落とす。

 中くらいの大きさに育っていた虫は刃を受けて、ぶちゅっと潰れた。黄緑色の体液が
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    「――さて。ユウの用件は済んだが、そいつは?」 ヴァリスが鋭い目でバルトを見た。 バルトは気圧された様子もなく、丁寧に礼をする。「申し遅れました。僕は盗賊ギルドのバルトと申します。ギルド後輩のユウの用事を助けるついでに、名高い白騎士ヴァリス様にお会いしようと思ってやって来た次第です」「……目的は?」 バルトは丁重な態度を崩さずに言った。「特には。騎士中の騎士と名高いヴァリス様をこの目で間近に見られて、それだけで満足ですよ」「盗賊ギルドが、よく言う」 吐き捨てるように言われたセリフに、バルトはにっこり笑ってみせる。「強いて言えば、僕らのことを知ってもらいたかった……というところですね。盗賊ギルドは誤解されやすいのですが、犯罪者集団ではありません。冒険者としての盗賊職を支援する、真っ当な面もあるんですよ」「本当です。俺、盗賊ギルドに入ったおかげでかなり腕を上げました。ダンジョン攻略の助けになっただけで、ギルドにいる間、何一つ悪いことはやっていません」 俺は口を挟んでみた。 盗賊ギルドに世話になっているのは事実だ。フォローくらいしないとな。 ヴァリスは俺たちの言葉に首を振った。「あくまで真っ当な『面もある』だけだろう」「あはは、バレちゃいましたか」 バルトはまったく悪びれない。「じゃあ仮にですけど。裏社会としてのギルドと冒険者としてのギルドが分離したら、冒険者の部分は表舞台に立つのを許されるでしょうか?」「……完全に分離したと証明できるのなら、検討の余地はある」 ヴァリスの慎重な言葉にバルトは笑みを浮かべた。「今の段階では、そのお言葉が聞けただけで満足ですよ」「おいバルト、そんな計画があるのか?」 俺は思わず口を出すが。「さあ、どうだろうねえ。ただ、組織はいつだって柔軟に変わっていかないといけないから。硬直化した組織なんて、いつか壊死

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第42話 不法侵入

     深夜、俺とバルトは王城の門のほど近くに隠れていた。 月は細くて、しかも雲がかかっている。絶好の侵入日和(?)だった。「なあ、本当に忍び込むのか?」 俺のヒソヒソ声にバルトは笑ってみせる。「怖気づいたのかい? 盗賊ギルドの一員ともあろう者が、情けない」 そりゃあ怖気づくだろ。 今から天下のパルティア王城に不法侵入するんだぞ。 たかが脱税でカルマががっくり下がる国だ。 王様の家である王城に侵入なんかした日には、その場で死刑になってもおかしくない。 けれどバルトは俺の言葉を意に介さず、さっさと進み始めた。 鈎爪つきのロープを取り出して投擲。王城の城壁に取り付いた。 素早い身のこなしでするすると登っていく。 俺も続いてロープを掴んだ。 バルトほどではないが、まあまあスムーズに登れたと思う。「ユウはまだまだだね。軽業スキルをもっと鍛えないと」「分かってるよ」「ギルドに戻ったら特訓部屋を貸してあげよう。四方から矢が飛び出してくる、からくり部屋だ。矢を避け続ける修行ができるよ」「お断りします」 なにそのバトル少年漫画の修行シーンみたいなやつ。 命の危険があるじゃん。俺はそこまでしたくないよ。 そんな無駄口を叩きながら、俺とバルトは城壁から飛び降りた。 植え込みや物陰に隠れながら進む。「騎士団長がいる場所、分かってるのか?」「目星はついているよ」 なんとも頼もしいことだ。 巡回中の衛兵の目をかいくぐりながら、俺たちは進んだ。 王城の中心地に近づくほど、衛兵の数が増えてくる。 と。 木の陰に隠れた俺は、うっかり枝を踏んでしまった。パキリ、と意外に大きな音がする。「何者だ!」 近くにいた衛兵の一人が槍を構えた。 ど、どうしよう! 俺は焦りまくりながら、とっさに、「に、にゃぁ~」 猫の鳴き真似をしてみた。

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第41話 犯罪者だ!再び

     俺は必死に衛兵から逃げる。「うわっ!」 衛兵の片方が矢を射掛けてきた。 あいつら容赦ない! とっさに左にステップを踏んでかわす。 軽業スキルとダンジョンで培った戦闘能力が役に立った。 矢は石畳の継ぎ目に突き刺さった。その威力にぞっとする。 路地に追い立てられ、狭い道を必死で走る。 やがて見えてきたのは行き止まり。 袋小路に追い込まれた。 衛兵たちの気配が近づいてくる。 と。 袋小路の手前、ゴミのかげにあったドアが急に開いて、俺は引っ張り込まれた。「しーっ。大人しくしてね」「バルト!」 俺を引き込んだのはバルトだった。 薄暗い室内で俺の口を押さえてくる。「犯罪者はいたか?」「いや、見失った」「近くにいるのは間違いない。よく探せ!」 壁一枚向こうで衛兵たちの声がする。 やがて声はだんだん遠ざかっていって聞こえなくなった。「ユウ、災難だったねえ」 バルトはニヤニヤ笑っている。 言葉とは裏腹にこうなるのが分かっていたかのような表情だ。 俺は心の底からため息をついた。「また地道なカルマ上げをすると思うと、気が遠くなるよ」「前と同じやり方じゃあ駄目だけどね」「え?」 バルトを見れば、彼は肩をすくめた。「だって税金の請求は二ヶ月ごとに来るんだよ? ユウは去年の夏が最後の納税なんだろ。次の税金を滞納すれば、脱税扱いになってカルマがまた下がる」 そうか、税金は二ヶ月毎に請求書が来るんだった。 締切まで間があるので、半年分ならまとめ払いができる。 ところが俺は半年前に納税したっきり。 次の締切は二ヶ月後になる。 たった二ヶ月でマイナス45のカルマを戻せるか……? いや無理だろ。以前はマイナス35から始まって、ゼロに戻すまで四ヶ月はかかった。

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